クラウド会計ユーザー向け電子帳簿保存法(スキャナ保存)の適用の整理

Last Updated on 2021年9月2日

クラウド会計ユーザーの方は、クラウド上で入力し、クラウド上で帳簿を作成しているため普段意識されることはあまりないと思いますが、

所得税や法人税などの国税に関する書類は紙の保存が原則ですが、一部要件を満たしたものについては電子保存が可能です。

電子データの保存に関する法律が「電子帳簿保存法」という法律です。

平成10年7月に施行された法律ですが、平成17年にはスキャナ保存制度が導入され、ここ最近も27年、28年と改正が続いており適用要件が大幅に緩和されました。

そんな流れもあり「電子帳簿保存法対応」とうたった会計ソフトも増えていますが、

実際はすべての帳簿・書類を今すぐ電子保存をできるわけではありません。

この記事では、主にクラウド会計ユーザー向けに電子帳簿保存法(特にスキャナ保存)の適用を整理します。

電子帳簿保存法が規定している3つの帳簿書類等の保存方法

電子帳簿保存法が定めている保存方法は、大きく分けて、3つあります。

帳簿の電子保存

一定の要件を満たした会計ソフトによって、作成の最初の記録段階から一貫してPCで作成した帳簿(仕訳帳、総勘定元帳など)

の電子保存を認めています。

クラウド会計ソフトは要件を満たさないため、現状(2019年10月現在)では帳簿の電子保存はできません。

(*2021年8月修正:クラウド会計freeeは、エンタープライズプランのみ、帳簿の電子保存対応可能とのことです。)

電子帳簿保存法の概要・手続について – freee ヘルプセンター

 

書類の電子保存

契約書や領収書などの重要書類と、

見積書や納品書などの一般書類の

電子保存を認めている制度です。

自己(自社)が最初から一般してPCで作成した書類の電子保存と、

「紙」媒体であるものの電子保存(スキャナ保存)を一定の要件で認めています。

平成27年度の改正でスキャナ保存(スキャナで紙の領収書等を撮影し、その電子データを原本とできること)

の幅が広がり、以前よりは使いやすくなりました。

スキャナ保存はクラウド会計ソフトも対応しています。

 

電子取引の取引情報の電子保存

インターネットを利用して取引情報のやり取りをした場合の電子保存です。

こちらは、容認規定ではなく「義務」となりますので、会計ソフト等関係なく最初から電子保存が原則です。

 

出典:電子取引データの保存の考え方 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会法務委員会 執筆者加筆

 

当記事では書類の保存のうち、紙の書類を電子保存する、スキャナ保存にについて説明します。

 

スキャナ保存の対象となる書類

スキャナ保存の対象となる書類は以下のとおりです。

平成27年度改正の前は、スキャナ保存の対象は3万円以上のものに限られていましたが、現在は金額に関係なく対象にできるようになりました。

重要な書類(人・モノ・金の流れに直結する書類)

契約書・請求書・領収証・納品書・請書・借用証書・預り証・預金通帳・小切手・手形など

それ以外の書類(一般書類)

検収書・作業報告書・見積書・注文書・契約の申込書など

本記事では、「重要な書類」の要件を確認します。

スキャナ保存の要件

スキャナ保存の要件は、以下のとおりです。

  1. 税務署への承認申請
  2. 重要書類の入力期間の制限(書類受領~タイムスタンプ付与までの期間制限(最大37日))
  3. 一定水準の解像度による読み取り
  4. カラー画像による読み取り(重要書類のみ)
  5. タイムスタンプの付与(書類受領者が付与する場合には、受領後3日、受領者以外の者が付与する場合は最長67日以内に)
  6. 解像度及び階調情報の保存
  7. 大きさ情報の保存(重要書類のみ)
  8. ヴァージョン管理
  9. 入力者情報の確認
  10. 適正事務処理要件(チェック体制・定期的な検査・改善体制)
  11. スキャン文書と帳簿との相互関連性の保持
  12. 見続可能装置(14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識等)の備え付け
  13. 電子計算機処理システムの開発関係書類等の備え付け
  14. 検索機能の確保

上記のうち、1、5、10以外はシステムが要件を満たしていれば可能です。

ユーザーが直接かかわる

1.税務署への承認申請

5.タイムスタンプの付与

10.適正事務処理要件

を見ていきましょう。

事前に税務署への承認申請が必要

領収書・契約書等をスキャナ保存するためには、スキャナ保存を開始しようとする日の3か月前までに所轄の税務署に

「国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書」

を提出しなければなりません。

受け取った領収書・契約書等にはタイムスタンプの付与が必要

領収書・契約書等の重要書類を電子保存するためにはタイムスタンプ(受け取った日時を示す文字列)を付さなければなりません。

クラウド会計ソフト(freee、MFクラウド)はこの機能を有料で利用することができます。

書類を受け取った者は、書類に手書きで署名の上、3日以内にタイムスタンプを付与する必要があります。

(書類を受け取った者以外がタイムスタンプを付す場合には、最長37日以内)

適正事務処理要件を満たす必要あり

スキャナ保存が適正に行われているか、社内で規定を定める必要があります。(適正事務処理要件)

具体的には

  1. チェック体制ができているか(原則2人以上の担当が入力を担当)
  2. 定期的な検査を行っているか(紙とスキャナ画像が同等であることを確認)
  3. 不備があった場合の改善体制がとられているか

を定める必要があります。

図で表すと次の体制をとっていることを定めた規定が必要になります。

上記で示したとおり書類の受領後からタイムスタンプ付与までは原則2人の担当者が必要となります。

(少なくとも、書類の受領者とタイムスタンプ付与者は分ける)

それに加え、経営者その他幹部(外部の業者でも可能です)が定期的な検査を行い、問題があった場合の改善体制もとられている必要があります。

ただ上記の場合、社長1人だけの会社などは実質不可能となってしまうため、小規模企業者(従業員が20人以下の事業者)に対する特例が平成28年度の税制改正で加えられました。

この場合、タイムスタンプ付与までの作業を1人で行い、定期的な検査は外部の専門家(税理士など)が担当することでチェック体制の要件を満たすことができます。

ただこの場合受領者がタイムスタンプを付与するので、書類受領後3日以内にタイムスタンプを付与しなければなりません。

 

定期的な検査が行われるまでは紙の書類は保存が必要

紙の書類は、スキャンしてタイムスタンプを付与すれば即廃棄できるわけではありません。

経営者や外部の専門家の定期的な検査が行われるまでは紙の領収書等は廃棄することができませんので、注意しましょう。

 

まとめ

クラウド会計ユーザー向け電子帳簿保存法の適用の整理をしました。

ポイントは

  1. クラウド会計ソフトが対応しているのは、紙媒体の領収書・契約書等をスキャンして保存する「スキャナ保存」のみ。帳簿の電子保存には対応していない
  2. スキャナ保存の要件で直接ユーザーに必要なことは、税務署への承認申請・タイムスタンプの付与・適正事務処理要件
  3. 受領者がタイムスタンプを付与する場合には、受領後3日以内に行う
  4. 適正事務処理要件は3つ(チェック体制・定期的な検査・改善体制)
  5. 小規模企業者の場合には、1人でタイムスタンプ付与まで行い、定期検査を外部の税理士等に任せることによってチェック体制が満たされているとみなされる例外あり

です。

まだまだ「紙の領収書を廃棄しても良い」を満たすためのハードルは高い印象です。

クラウド会計の領収書読み取り機能は仕訳を効率よく行うためのものとして利用してみて、

もう少し様子をうかがうのも手かと思います。