Last Updated on 2022年8月24日
日本の暗号資産税制は厳しいと言われています。
それを調べるべく各国比較(アメリカ、イギリス、シンガポールの3カ国だけですが)をしてみました。
- 日本以外の国は暗号資産についてキャピタルゲイン(分離課税)としての取り扱いがある
- 変動の大きい暗号資産こそ、税率の低い分離課税、損益通算、損失繰越が可能となるべき
- 日本の暗号資産税制は海外でも批判されている
目次
比較表
ざっと調べたところ、以下のように整理できました。
項目 | 日本 | アメリカ | イギリス | シンガポール |
暗号資産の位置付け | 電子的に交換ができる財産的価値 | Degital reprensentation of value(デジタルな価値表現。通貨としては取り扱われない) | Intangible(無形資産)。ただし、次の2つの要件を満たす場合には「chargeable asset」としてキャピタルゲイン税の課税対象。 ・所有することができる ・実現可能な価値がある | ペイメントトークン、ユーティリティートークン、セキュリティートークンに区分 |
課税のタイミング | ・暗号資産の売却時 ・暗号資産同士の交換時 ・対価として受け取った時 ・商品・サービスの使用時 ・マイニング、ステーキング時 | ・暗号資産の売却時 ・暗号資産同士の交換時 ・対価として受け取った時 ・商品・サービスの使用時 ・マイニング時 ・投資としての暗号資産保有時 | ・暗号資産の売却時 ・暗号資産同士の交換時 ・商品・サービス利用時 ・他者にトークンを与えた時(配偶者またはCivil partnerへの贈与を除く) ・トークンを慈善事業に寄付する時(一定の場合のみ) ・マイニング時 ・給与として受け取った時 | ・事業者が対価として暗号資産を受け取る時 ・暗号資産の処分時 |
所得税の計算方法 | ・所得区分は基本雑所得 ・損失の繰越不可 ・総合課税 ・最高税率45% | ・1年以下の保有の場合、短期キャピタルゲイン税(通常の累進税率。最高37%)、1年超の場合には長期キャピタルゲイン税(最高税率20%)発生。 ・損失は$3000を上限に、3年間の繰越が可能。 | ・事業活動とみなされる場合所得税(最高税率45%)が課される。 ・個人投資とみなされる場合、キャピタルゲイン税(最高税率20%)が課される。 ・保有するトークンの種類ごとにプールして計算する必要あり ・暗号資産の損失は4年間の繰越が可能。ただし事前にHMRC(歳入税関庁)に報告が必要。 ・マイニングコストは経費として認められない | ・暗号資産取引がキャピタルゲインと認められれば非課税、それ以外は所得の額によって課税(最高税率24%) ・暗号資産の損失は利益との相殺が可能 ・期末時価評価による損益は課税対象にはならない ・基本的にマイニング活動は事業とはならず、課税対象外 |
気づいた点は、以下のとおりです。
日本以外は、暗号資産の利益について「キャピタルゲイン」とする取り扱いがある
日本では、暗号資産による利益は基本的に「雑所得」となります。
雑所得は他の所得と合算されて累進税率が課される総合課税となりますので、
所得が大きいほど非常に税率が高くなります(最高税率45%)。
また、損失の繰越もできません。
一方、アメリカの場合には保有期間が1年以内の短期トレードの場合には
高い税率ですが、1年超の場合にはキャピタルゲイン税として最高20%の税率と負担が抑えられます。
損失の繰越も上限($3000/年)がありますが、3年間可能です。
イギリスの場合は事業活動とみなされる場合には高い税率(最高45%)が課されますが、
個人投資とみなされる場合にはキャピタルゲイン税(最高税率20%)と負担が抑えられます。
シンガポールにいたっては、キャピタルゲインと認められる暗号資産取引は基本的に非課税となります。
このように日本では暗号資産を株やFXと同様にキャピタルゲイン課税として分離する
ルールがいまだなく、すべて合算される総合課税、
かつ課税ルールが複雑、損失繰越不可
という重い負担となっていることがわかります。
変動の大きい暗号資産こそ、税率の低い分離課税、損失繰越が可能となるべきと考えます。
このような状況の中で、
日本でも、暗号資産の税金をFXや株式のように税率が一定で損失の繰越が可能な分離課税に改正することが検討されています。
税制検討部会 | 一般社団法人 日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)
日本の税制を「悪夢」と評している記事も
海外ではこの税制はどう思われているのか。
こちらの記事では日本の税制が「悪夢」と評されています。
Unfortunately, Japan taxes crypto in the worst possible way: as miscellaneous income. What does this mean for the investor? It means that you could be looking at taxes on your gains of up to 55%. That’s right, Japan will take most of the winnings on your crypto asset bet, even though you took all the risk.
「残念ながら、日本は暗号資産に対して最悪な方法で課税を行なっている。雑所得として。
これは投資家にとってどんな意味を持つのか?
それは、利益に対して最大55%の税金がかかるかの可能性があるということだ。
そう、たとえあなたがすべてリスクを負ったとしても、暗号資産に賭けた利益のほとんどを日本が手にすることになるのだ。
You can imagine that if you are not just holding, but actively trading your crypto currencies on an ongoing basis, filing your taxes each year can become a potential administrative nightmare if you are not keeping records of all the transaction values.
「暗号通貨を保有するだけでなく、継続的に活発に取引している場合、すべての取引額を記録していなければ、毎年の確定申告が管理上の悪夢になる可能性があることは想像できるだろう。」
特に2つ目のセンテンスについては外国人の方の暗号資産の確定申告を請け負った身として、思うところがあります。
「悪夢」とまではいいたくないですが・・汗 それに近いところがあるかもです。
取引を追うだけで1日が終わってしまいます。
分離課税への移行もそうですが、
計算方法の簡素化も期待したいところです。
まとめ
本記事では、暗号資産税制(個人所得税)の各国(日本、アメリカ、イギリス、シンガポール)比較をしてみました。
日本の課題は暗号資産についてキャピタルゲインとしての分離課税の取り扱いがないことです。
今後の改正に期待しています。
参考記事
- 資金決済に関する法律
- Virtual Currencies | Internal Revenue Service
- Topic No. 409 Capital Gains and Losses | Internal Revenue Service
- CRYPTO22050 – Cryptoassets for individuals: Capital Gains Tax: what is an asset – HMRC internal manual – GOV.UK
- Check if you need to pay tax when you receive cryptoassets – GOV.UK
- Capital Gains Tax rates and allowances – GOV.UK
- IRAS | Taxable & Non-Taxable Income
- Taxation of Cryptocurrencies for Individuals in Singapore | Crowe Singapore