Last Updated on 2023年6月13日
目次
本記事の目的
最近、web3の流れで、
DAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)
が注目されています。
その中でもWeb3的な特徴を示しているのが「Nouns」というDAOです。
- ブロックチェーンに直接書き込まれる「フルオンチェーン」(NFTの消失の可能性0)
- ガバナンストークン(投票権付NFT)によるコミュニティ参加
- トレジャリーウォレット(コミュニティの共同の財布)の利用
- 創立者の権限の抑制(創立者であっても報酬は供給量の10%)
といった、「データの永続性」「非中央集権」「権利分散」を体現しているDAOだからです。
上の記事では「日本ではDAOは規制があって難しいのでは」とだけしか
触れていません。
しかし、そもそもDAOには様々な形態があるため
「仮にこのようなDAOを日本で創設した場合に、課税関係はどうなるか」
といった考察は可能と思い、今回記事にしました。
- DAOは自律分散型組織。スマートコントラクトの設計によって様々な形態が考えられる
- 法人でDAOを運営した場合の税金(主に法人税)の取り扱い
- 法人なしでDAOを運営した場合の税金(主に所得税)の取り扱い
*あくまで筆者の見解であり、国税庁からの正式な見解は出ていないこと、ご了承いただければと思います。
DAOの定義
DAOの定義は先に示した通り「分散型自律組織」ですが、
実際には様々な形態のDAOが存在しています。
DAOの設計にはスマートコントラクト(コンピュータプロトコルによる契約の自動化等)が大きく関わっており、無数にその形態が存在すると考えられます。
したがって、本記事では、下記の特徴のある
DAOを前提に、
法人あり・なしで運営した場合の課税関係はどうなるのか、検討していきたいと思います。
- DAOに参加するための権利としてメンバーはNFTの購入が必要
- NFTの購入代金(ETHなど)は、DAOの共同ウォレットに入る
- 共同ウォレットに貯まる暗号資産の使い道はDAOメンバーの投票で決める
- DAOへの貢献度に応じて、DAOメンバーへNFTの配布が行われる
- 法人DAOの場合、独自トークンの配当も行われる
- DAOメンバーはNFTをOpenseaなどのプラットフォームで売却もできる
DAOを法人で運営した場合
まず、DAOを株式会社、合同会社などの法人で運営した場合を考えます。
なお「共同ウォレット」とはいえ、
DAOを法人が運営する場合には実質法人の代表者が
ウォレットを管理していくことになると想定されます。
DAO(法人)の税務
以下、表にまとめました。
タイミング | 法人税の取り扱い | 会計処理 |
NFTのミント(発行)時 | 発行するだけなので課税なし | – |
NFT販売時 | NFTの売上に対して法人税がかかる | 暗号資産 *** / 売上高 *** |
事業年度末 |
| 暗号資産 *** / 暗号資産評価益 *** 又は 暗号資産評価損 *** / 暗号資産 *** |
NFTの配布時 | ? | – |
トークン配当時 | 配当するだけなので課税なし | 繰越利益剰余金 *** / 暗号資産 *** |
(*1) 暗号資産に該当するNFTは時価評価の対象となる可能性がある。
まずNFT販売は資金調達のような側面もありますが、
株式と違って金融商品ではないため
通常の売上として法人税が課されます。
また、法人の場合には
期末に所有する活発な市場が存在する暗号資産については時価評価しなければならない
点が特徴です。
つまり、ETHなどの活発な市場が存在する暗号資産は時価評価をして、
含み益に対しても法人税が課されます。
これは法人自身が発行したトークンについても同様なので、
非常に重い税制です。
なお、法人が発行したNFTについては基本的には一点ものということで
時価評価は不要という考え方が基本と考えられます。
一方で、一般利用者から見て他と区別のつかないNFTが多数発行されている場合、ICOや決済手段等として利用されることもあり得るため暗号資産に該当する場合もある(自民党 NFTホワイトペーパー案「外見上違いがないNFTが多数発行される場合の暗号資産該当性」)とのことなので、
このような特性のあるNFTは暗号資産として時価評価の対象になり得ます。
貢献度に応じてNFTをメンバーに配布した場合、
その価値算定が難しいため給与や外注費のように
経費計上できるのかは不明です。
*2023年6月追記
令和5年(2023年)度の税制改正で、
自社が発行した暗号資産で、発行のときから継続して保有し、その発行の時から継続して譲渡制限が行われているもの
については時価評価の対象外となりました。
これにより、資金調達として暗号資産を発行することのハードルが下がりました。
参考記事:2023年度(令和5年度)税制改正大綱まとめ(暗号資産関係)
DAOメンバー(個人)の税務
タイミング | 所得税の取り扱い |
NFT購入時 | 購入するだけなので課税なし |
年末 | NFTの時価評価は必要なし |
NFTの配布時 | 基本課税なし(*2) |
トークン配当時 | 配当所得として、所得税がかかる(配当控除により二重課税抑制) |
NFTの売却時 | 売却益に所得税がかかる(譲渡又は雑) |
(*2) 暗号資産に該当するNFTは配布時の時価に所得税が課税される可能性がある。
DAOメンバー(個人)の場合、年末の時価評価の必要はありません。
トークン配当時、NFT売却時に所得税の申告が必要になると考えてよいでしょう。
DAOを法人なしで運営した場合
DAOを法人なしで運営する場合、
団体名義で口座や不動産を持つことができないなど、
制約があります。
例えば、Discord内の特定のNFTを持った人だけが参加できる
コミュニティなどが考えられます。
この場合も、共同ウォレットとはいえ
はじめはDAOの創立者が管理するウォレットに
暗号資産やNFTが保存されると想定されます。
DAO(創立者)の税務
タイミング | 所得税の取り扱い |
NFTのミント(発行)時 | 課税なし |
NFT販売時 | 売上に対して所得税がかかる(事業又は雑所得) |
年末 | 暗号資産、NFTともに時価評価なし |
NFTの配布時 | ? |
法人格を持たずにDAOを運営する場合、
DAOの創立者がNFTを発行し、自身のウォレットにNFT代金の暗号資産が送付される
ことになると考えられます。
その売上から経費を差し引いた金額を
DAOの創立者は事業又は雑所得として所得税の確定申告を行います。
個人の場合には年末に暗号資産やNFTを保有していても時価評価の対象にはならず、含み益に対して所得税は課されません。
なおNFT配布時は必要経費として認識できる可能性もありますが
法人と同様そのNFTの価値算定が難しく取り扱いが不明です。
DAO(メンバー)の税務
タイミング | 所得税の取り扱い |
NFT購入時 | 購入するだけなので課税なし |
年末 | NFTの時価評価なし |
NFTの配布時 | 基本的に課税なし(*3) |
NFTの売却時 | 売却益に所得税がかかる(譲渡又は雑) |
(*3) 暗号資産に該当するNFTは配布時の時価に所得税又は贈与税が課される可能性がある。
DAOメンバー(個人)の場合、年末の時価評価の必要はありません。
基本的にはNFT売却時にのみ譲渡又は雑所得として所得税の申告が必要になると考えてよいでしょう。
まとめ
以上、日本でDAOを作った場合の税金(法人あり・法人なし)
を考察しました。
よりweb3的なDAOを考える場合、
中央集権的な法人格がない、個人が集まったDAOが運営する形態が妥当と考えられます。
ただ今のところ共同ウォレットという概念が所得税法上ないため
一旦創立者の売上として認識する必要がある点がネックです。
現在匿名組合などで採用されている
「パススルー」(団体そのものではなく、構成員に課税)の考え方が、DAOの特性にマッチングすると考えています。
いずれにしても、
日本の暗号資産に対する重い税制や
不明確な部分は早急に改善すべきことと考えています。