Last Updated on 2021年10月11日
令和2年分の年末調整から、年末調整の電子化に向けた施策が実施されます。
具体的には、国税庁の無料ソフト『年調ソフト』を活用した年末調整の電子化です。
当記事では、年調ソフトによる年末調整のメリットとその方法、
最後に課題を紹介します。
目次
年調ソフトを使うメリットがある会社
最初に、令和2年分に限って年調ソフトを使うメリットがある可能性のある会社は、
2020年10月21日現在では
年末調整ソフトを導入していないひとり社長〜従業員数名までの会社
です。
お手数ですが、それを踏まえた上で
お読みいただければ幸いです。
令和2年分の年末調整から電子による方法が認められます
年末調整とは、従業員の1年間の所得を取りまとめ、
会社が過不足分の所得税を精算することです。
その方法が紙中心からデータ中心へと変更が認められるようになりました。
従来の方法
今までは、従業員から
所得税の計算に必要な
- 保険会社等から送られてくる控除証明書
- 扶養控除等申告書等の各種申告書
を紙で集めることが原則でした。
図式化すると以下のとおりです。
申告書とは、例えば下記の扶養控除等申告書が該当します。
令和2年分からは、下記の変更があり、更に申告書が増え、複雑になりました。
- 給与所得控除(サラリーマンの概算経費)が65万⇒55万に
- 基礎控除(最低限所得から控除することができる金額)が38万⇒48万に
- 所得金額調整控除の創設(給与収入850万円を超える一定の方の税負担を軽減する制度)
- 未婚のひとり親に対する寡婦(寡夫)控除の見直し
申告書が増えることによる紙の増加、従業員が申告書を正しく作成出来ない場合の
会社の負担が懸念されます。
令和2年分から可能な電子による方法
そこで、控除証明書、申告書をデータ化することによって
従業員、会社の負担が軽減されることが期待されています。
具体的には、
従業員が紙で取得していた控除証明書等を、
データで取得し(マイナポータルから一括受取も可能)、
年調ソフトにインポート、必要事項を入力した上で
各種申告書のデータを作成し、会社に提出する
という流れです。
図式化すると、以下のとおりです。
年末調整を電子で行うことのメリット
年末調整を電子で行うことのメリットは、以下です。
- 控除証明書、各種申告書の紙保存が不要(*)となり、ペーパーレスにつながる
- 従業員は申告書を自分で記入する必要がないため、ミスが減る
- 会社にとってはチェックが楽になる
*申告書の電子保存を行う場合には、税務署へあらかじめ「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申告書」を提出する必要があります。
年調ソフトによる申告書データ作成の方法
実際に、年調ソフトを使って申告書データを作成してみたので参考にしてください。
(*数字は架空のものです。)
年調ソフトのインストール
国税庁が運営する無料の「年調ソフト」をこちらのページからダウンロードし、インストールします。
年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)|国税庁
Windows、Macいずれも可能です。
気になるのは、クラウドではない、ということですね。
つまり従業員ひとりひとりが自身のPCにインストールする必要があります。
WindowsではPowerShell(コマンドを打ち込むソフト)を使う必要があったのと、
Macではセキュリティの変更の必要がありました。
少し、インストールのハードルが高めです。
↓(Macでは下記のようにセキュリティの設定を変える必要あり)
必要事項を入力していく
インストールして開くと、トップに次の画面が現れます。
フォントの色使いが今までの国税庁運用ソフトと異なってカジュアルですね。
申告書を作成する場合、「控除申告書を作成する方はこちら」ボタンを押します。
使用するユーザ数の選択という画面がでてきますので、
選択します。
通常、「あなたひとりで使用する」になるかと思います。
(複数人で使用するというのは、会社内の共有PCを想定しているのかも?)
このようなメニー画面が現れますので、
「新規作成」ボタンを押します。
自分の情報を入力していきます。
入力のしやすさは、まずまずというところです。
今年(令和2年)の所得の見積額を入力します。
給与収入は、12月に支払われるまでの給与収入です。
給与以外の所得がある場合にも、入力します。
給与以外の所得がありますか?に「はい」を選択すると
それぞれ所得を入力する画面が出てきます。
ヘルプもついているので便利です。
とはいえ、12月までの給与収入を誤って入力する可能性もあるかな、
とは感じました。
給与計算ソフトであればここらへんは自動で入るので安心なのですがなにぶん
従業員が手入力しなければいけないので少し心配です。
その他、所得控除に関する質問に答えていきます。
ID、パスワードを入力する画面が出てきます。
ここで、「IDについては社員番号などを利用するケースがありますので、給与の支払者に確認してください」
というメッセージがあります。
これは、会社側が提出された申告書データを管理しやすくするための注意書きかと。
ですのであらかじめ会社のほうから従業員に
「IDは社員番号にしてください」
などとアナウンスすることを促していると考えられます。
給与支払者の情報を入力します。
法人番号は、国税庁のホームページで公開されています。
ここで入力したデータが各種申告書に反映されます。
控除証明書等をインポートする
保険会社から交付された控除証明書等のデータ(拡張子がxml)を取り込みます。
なお、取り込む方法は
- マイナポータルから一括取込
- 保険会社ごとに個別に取込
の2つの方法があります。
マイナポータルですが、いまのところ連携できる保険会社等は以下であることが分かりました。
私が唯一契約しているソニー生命保険は見当たらず・・
従って、もう一つの方法(保険会社のマイページから直接データを取得して、インポート)
で試しました。
証明書の電子データをインポートするを選択し、
インポートする電子データを選択して実行します。
無事、取り込まれました。
申告書の作成
その他必要な申告書を作成します。
どの申告書を作成すればよいのかわからない場合には、
「作成する申告書がわからないとき」
ボタンを押すと、
質問が現れるので、
答えていくことによって必要な申告書を提案してくれます。
作成する控除申告書が選択されました。
「控除申告書の内容」ボタンをクリックすると詳細を見ることができます。
説明が複雑すぎますが。。
その他扶養親族、配偶者等の入力を進めていきます。
保険料控除については、
先程インポートした控除証明書のデータが既に反映されています。
いちいち新、旧契約を確認した上で控除額を手計算しなくても良いのでミスの防止につながると感じました。
最後に内容を確認すると、
保存・出力画面が出ます。
データで出力する場合には、「電子データで出力する」を選択します。
マイナンバー入力画面が表示されます。
既にマイナンバーをk視野に提出している場合には省くことができます。
電子署名等についてという画面が出てきます。
電子署名をつけるとなると電子証明書つきカードとICカードリーダライタが必要となりますので、
現実的にはパスワードが妥当かと思います。
最後に、添付書類の注意事項が表示されます。
保険料控除申告書は、データで取得できなかったもの(下記の場合には小規模企業共済掛金)を書面で提出するよう促されます。
データも、パスワードなしとパスワード付きが出来上がっていました。
(中身はxmlファイル)
これらいずれかを会社に提出することになります。
なお、申告書は下記の書面の形式でもPDF保存又は印刷することができます。
紙のフォーマットとだいぶ違うのが少しきになりますが、
必要な事項は揃っています。
課題:年調ソフトからのデータ取込に給与計算・年末調整ソフトが対応していない
以上長々と従業員が年調ソフトで行う処理を説明しましたが、
会社側は受け取ったxmlデータを給与計算ソフト・年末調整ソフトに取り込んで
年末調整の計算を行う必要があります。
ただ、2020年10月21日現在
年調ソフトから作成したxmlデータを取り込むことのできるソフトは
私の方では、いまだ把握できておりません。
例えば、以下のソフトは令和2年分の年末調整については年調ソフトからの取込不可と回答がありました。
- 人事労務freee
- MFクラウド給与
また、SmartHRについては
以下のページにて
「「年末調整手続の電子化に向けた取組」として実施される下記内容との連携については、2021年以降に対応の検討を予定しております。」と明記されています。
令和2年分から始まる「年末調整手続の電子化に向けた取組」にSmartHRは対応していますか? – SmartHR
つまり、せっかくデータ(xml)で提出してもらっても
それをインポートできるソフトがいまのところ存在しない状況です。
(情報がアップされたらまた更新します)
従って
令和2年分の年末調整に限っては、
メリットを感じられるのは
年末調整ソフトを導入していないひとり社長〜従業員複数名までの会社
ではないか、と最初に書いた次第です。
とはいえ
- 申告書を手書きするよりは年調ソフトに入力したほうが早い
- 控除証明書のインポートによりミスを減らせる
というメリットはありますので、
年調ソフトは申告書を正しく作成するためのものと割り切って、
年末調整の計算は別途ソフト又はExcel等で行う、という方法が今期最大限できることと考えています。
まとめ
国税庁の無料ソフト『年調ソフト』による年末調整のメリット&方法と、
課題を紹介しました。