Last Updated on 2019年11月19日
以前、クラウド会計ユーザー向け電子帳簿保存法(スキャナ保存)の適用の整理という記事を書きました。
この記事の中で、電子保存には
- 帳簿の電子保存
- 書類の電子保存(スキャナ保存含む)
- 電子取引の取引情報の電子保存
があることを説明しました。
当記事では、3つ目の「電子取引の取引情報の電子保存」について説明します。
電子取引の取引情報の電子保存とは、
インターネットを利用して取引情報のやり取りをした場合の電子保存のことです。
この場合、電子保存は「容認」ではなく「義務」となります。
(ただし印刷したものを保存することも容認)
これから起業される方は、スキャナ保存ではなくこの「電子取引の取引情報の電子保存」をお勧めします。
目次
スキャナ保存の要件は厳しい
スキャナ保存の記事にも書きましたが、
現状「紙を写真にとって電子保存する」ということはハードルが高いです。
ひとり会社やフリーランスなどひとりで仕事を行っている方は原則導入ができないですし(外部の税理士等が必要)、
タイムスタンプの導入などコスト面からも導入の難しさが感じられます。
そもそも、「紙を写真にとって電子保存する」ことは本当のペーパーレスかというと微妙です。
紙の契約書を電子保存するために写真で撮って、証拠能力をつけるためにタイムスタンプを付与して定期的にチェックして・・
とするくらいだったらむしろ紙で残しておいたほうが手間が少ないでしょう。
本当のペーパーレスを目指すのであれば、
最初から「紙」ではなく「電子取引」で行うことが基本となります。
例えば、電子契約サービスである「クラウドサイン」は、
紙のやりとりをすることなく、オンライン上で契約が完結します。
したがって、電子帳簿保存法が定める「電子取引」に該当し、そのままデータとして電子保存することが原則となります。
画像出典:クラウドサインのトップページより
もうひとつの例として、決済代行サービスである「PayPal」は、
紙のやりとりをすることなくオンライン上で請求、決済が完結します。
画像出典:PayPalのトップページより
このような取引も「電子取引」に該当し、電子保存することが原則となります。
その他請求書をクラウド共有する、メール添付して送る、ネット通販での購入なども電子取引に該当します。
このように、
取引を最初から電子で行う電子取引を基本に進めれば、
原則が電子保存になるため自然とペーパーレスを実現できます。
ただし、電子取引を保存するには要件がいくつかあるので見ていきましょう。
電子取引の保存要件
電子取引を電子のまま保存するためには、いくつか要件があります(電子帳簿保存法10条、施行規則第8条1項)。
納税地において、7年間、電子取引の取引情報を保存すること
納税地(通常フリーランスであれば住所、法人であれば本店所在地)にて
7年(欠損金の繰越控除を行う法人は10年)間電子取引の取引情報を保存することが必要です。
どこに保存するかというと、
自社のサーバーでも良いですし、クラウドサービスなど、海外のサーバーでも良いことになっています。
関係書類の備え付けをしていること
利用する電子データ作成サービスの概要を記載した書類(マニュアル)の備え付けが必要とされています。
クラウドサインのようなWebサービスの場合マニュアルページ等を印刷しておくと良いでしょう。
検索機能の確保
取引年月日や金額などで条件を設定して検索できるようにしておくことが必要とされています。
より具体的な要件はデータごとに異なりますが、年月、取引先等でフォルダを区分して
特定のデータを検索できるようにしておけば大丈夫ではないかと思われます。
見読性の確保
電子データの取引情報を、パソコンのディスプレイ上等に、整然かつ明瞭な状態で速やかに出力できることが必要とされています。
最新のPCやモニターがあれば十分でしょう。
真実性の確保(タイムスタンプ付与又は事務処理規定の備え付け・運用)
その電子データが真実かどうかを証明するために
- タイムスタンプ付与
- 事務処理規定の備え付け・運用
のいずれかが必要とされています。
タイムスタンプは、電子データに付与される日時情報のことです。
タイムスタンプが付与されることによって、その電子取引がそのタイムスタンプに記録された
日時に確実に発生したということの証明になります。
ただタイムスタンプの導入にはコストがかかります。
そこで、代替手段として事務処理規定の備え付け・運用が認められています。
事務処理規定とは、
- 取引データの保存
- 対象データ
- 管理責任者
- 訂正削除の原則禁止
等を定めたものです。
【事務処理規定の例】
出典:電子取引データの保存の考え方 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会法務委員会 p.21
自社のみ規定を作ることも可能ですし、取引先との契約で作ることも可能です。
実務的には、自社のみで規定を作って運営していくという方法が
一番手間もかからないのでスモールビジネスにお勧めです。
まとめ
これから起業される方の本来のペーパーレスとしてお勧めしたい電子取引とその保存要件について、説明しました。
既に起業されている方にとっては
ビジネスは自社だけでなく取引先との関係も大事ですので
今すぐにすべてを電子取引、というのは難しいかもしれません。
ただ意外と相手も「ペーパーレスにしたい」という想いもあるかもしれないので、
まずはコミュニケーションをとってみることからスタートだと考えます。