Last Updated on 2016年12月12日
目次
二重課税を回避するための租税条約
国家間をまたぐ取引でよく問題になるのが二重課税の問題です。
とりわけどこで所得が発生したかという所得の源泉地や、源泉税率は各国で異なる場合が多く二重課税が頻繁に発生します。
このような二重課税を回避する仕組みが国内法による規定(日本の場合は外国税額控除)の他、二国間条約である租税条約です。
租税条約のポイント―源泉税率の減免
国家間をまたぐ取引でも商品の輸出入など所得が発生した場所(源泉地)を検討する必要がなく、源泉徴収も必要ない取引は租税条約の確認は基本的に必要ありません。
実務上よく問題となるのが、源泉徴収を必要とする取引で、源泉税率の減免などの特典が租税条約に定められている場合です。
例えば
- 使用料(ロイヤリティ)
- 配当
- 借入金利子
などの取引です。
これらの取引が海外企業との間で発生した場合には租税条約の適用を検討しましょう。
国内法の検討
例えば、日本の企業が海外の企業から何らかの特許権の使用許諾を得て国内にて使用し、そのライセンスフィーを海外の企業に支払う場合。
まず国内法に照らし合わせて考えます。
所得がどこで発生したかという源泉地の問題ですが、日本の税法上使用料はそのライセンスが使用されている国に源泉地があるという取り決めがあります。
従って海外の企業は日本にて所得が発生したと国内法上判断されます。
更に、使用料は源泉徴収の対象となるため支払者である日本企業が源泉徴収(復興税と合わせて税率20.42%)を行うこととなります。
租税条約の検討
次に、租税条約を検討します。
基本の考え方は、租税条約に国内法とは異なる定めがある場合には租税条約の適用を優先します。
前述の使用料の場合、源泉税率について租税条約上減免(もしくは非課税)とされている場合が多く、検討が必要です。
例えばイタリアとの租税条約の場合、イタリアの企業に支払う使用料の源泉徴収税率は10%までと限度が設定されています。
従ってこの場合、国内法の規定による20.42%ではなく租税条約の限度税率である10%が優先されます。
それでは逆に日本の税法による源泉税率の方が低かったらどうなるのでしょうか。
その場合には、租税条約ではなく日本の源泉税率が優先されます。
そもそも租税条約で定める源泉税の限度税率は「限度」という名前がついているとおり、源泉地国での投資を活発化させるために源泉地での課税を制限するという意味があります。
そのため、租税条約により源泉税率が引き下げられることはあっても、逆に引き上げられることはありません。
(この考え方をプリザベーションの原則と呼びます)
租税条約の適用を受けるための手続 – 届出書の提出、居住者証明の要否に注意
租税条約に定める源泉税の減免措置を受けるためには、「租税条約に関する届出書」を利子・配当・使用料等の支払いをする日の前日までに支払者の所轄税務署に提出しなければなりません。
なお、このときに相手先企業が本当に租税条約を結んでいる国の居住者であるかどうかを証明する「居住者証明」が必要になる場合があります。
この手続きは第三国の居住者がペーパーカンパニーを租税条約が締結されている国に設立して租税条約の恩恵を受けてしまうという不正(Treaty shopping、条約漁りともいいます)を防ぐためです。
居住者証明は各国の行政当局で取り寄せてもらう必要があります。
租税条約の届出を行う場合には、相手国との条約内容を見て居住者証明が必要となるかどうかを事前に確認することが大事です。
(租税条約のなかで特典条項(limitation on benefit clause, LOB条項)が定められている場合必要となります)
なお、届出書の提出が遅れて原則通り20.42%を徴収した場合には後日税務署に還付請求を行うことができます。
まとめ
租税条約の適用、特に源泉税率を検討する場合の注意点をまとめてみました。
基本的に海外との間で
- 使用料(ロイヤリティ)
- 配当
- 借入金利子
などの取引があり相手国との間で租税条約が結ばれている場合には源泉税率の減免等が適用になる可能性があります。
これらの海外取引が発生しそうになったら早めに税理士に相談しましょう。